家鴨文庫だより(その2)

古書収集で異本の収集が一番楽しい。装丁や版組の違いはもちろん、内容の修正や劣化など。
今年の8月、日本教育史研究会のサマーセミナーに大学や中学校の教員や博物館学芸員がパネリストになって、教育史研究がそれぞれの教育にどう活かせるかというテーマの議論になった。ここで日本教育史は、実は1876(明治9)年の万国博覧会への英文図書出品を引き金に、図書出版から始まって、それが徐々に明治時代の教員養成の教科書となって、専門の学者達が誕生するのは大正昭和になってからだというお話をした。
この最初の教育史と銘打った図書であり、教科書である『日本教育史略』の異本類を家鴨文庫から提示した。

最初の1877(明治10)年版は文部省が直接に出版

明治10年とあるが、1884(明治17)年5月年版。いまの吉川弘文館が文部省の許しで復刻。家鴨文庫本は海後宗臣の旧蔵。

明治10年とあるが、1884(明治17)年8月版。大阪での翻刻。

1886(明治19)年版。師範学校教科書であることを扉に明記した。

それでどうなのといわれても、異本愛好家としては寂しい。「明治10年の日本教育史略が師範学校に教科書として使われました」という多くの教育史の概説書に書かれている叙述が、実は明治10年はまだ教科書ではなくて、それが再び翻刻されたのが明治17年、そして師範学校のカリキュラムのかわる明治19年にはこうして異本が出たのだということが、漏示の現物の書籍で追体験できることが楽しいのである。どうも。

【ケロT取締役】

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