黒沢さんの蔵書

わが出版局が「4年制通信教育課程開設準備室 教材班」という

準備段階にあった2001年から数年にわたって、制作を担当された

黒沢哲夫氏が鬼籍に入られて5年がたつ。

先日、ご遺族から「蔵書を処分したいので、御入り用のものが

あれば、どうぞお持ちください」と連絡をいただき、

お宅にうかがいました。

二間幅、二層スライド式の重々しい書架でまず目にはいるのは

鏡花全集。

「ひゃあ、てっちゃん、鏡花が好きだったの?」

われわれは、氏に向かっては「黒沢さん」と言っていたが、

影では親しみを込めて「てっちゃん」と呼んでいたので、

つい奥様の前で「てっちゃん」と云ってしまう。

奥様はニコニコしておられる。

岩波のアリストテレス全集、プラトン全集・・・そう、

てっちゃんは哲学科の出身だった。

ハムコは図々しくも、以前から欲しかった岩波の漱石全集17巻+

月報、荷風の断腸亭日乗7巻をいただくことに。

大きなリュックを背負っていったが、あまりの大著に宅配便で

自宅へ。着いて早々に俳句と詩の巻をあけてみると

あきらかに時間をかけて読んだ形跡が漢詩のページにある。

「へぇ、てっちゃん、漢詩なんか読んでたんだ」

 

引っ越すたびに本の処分に悩み、捨て、売り・・・

今や青空文庫で漱石がいくらでも読めるのに、箱に入りの

重い全集をどうしてもらってしまったのだろう。

[編集:ハムコ]

コメント

  1. ずっち☆ より:

    私も蔵書開放と聞いて、
    ハムコ、凹山、呑猫と共に
    いそいそと出かけてしましました。

    戴いたのは、ベタながら、

    瀧口修造「余白に書く」、
    マルセル・デュシャンのカタログ、
    ランボー詩集や日本の現代詩集など。
    大方、詩集を戴きました。

    シミのついた書物に浸りながら、
    黒沢てっちゃんの「おもい」に耽る。
    蔵書は人を語りますね。
    (飲み屋の領収書が入っていたり!)