『博物館資料の臨床保存学』

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上野の東京国立博物館は、いつも賑わっているイメージ。特に人気のある展示の時などは、入り口前に長蛇の列ができることも珍しくありません。
そんな賑わいの陰で日夜行われているのが、収蔵されている文化財資料の保存修復作業です。
文化財の保存修復というと、その文化財がつくられたときの姿に近づける、要は見た目をよくすることだと考えがちですが、現在、文化財資料保存の現場ではそのような考え方は退けられているようです。
では現在の資料保存の基本的な考え方とはどんなものか。簡単にいってしまえば「よりオリジナルに近い形での現状維持」となるのでしょうか。過去に行われた過度の「介入」と見られる修理跡などがある場合は一度その修理の前の状態に戻して、あらためてそれ以上の劣化がおこらないための保存環境づくりや必要最小限の処置が行われるのだそうです。
それぞれの文化財が経てきた時間も含めてオリジナルの価値を評価し、あるべき姿で後世へ伝える。文化財ひとつひとつに寄り添うような保存修復が、静かに、でも着実に進行しています。そのおかげで私たちはすばらしい文化財資料の数々を今も目にすることができているわけです。
ただ、東京国立博物館だけでも収蔵登録されている文化財資料の数が昨年3月の時点で114,362件もあるのだとか。全てを理想的な保存状態、環境に、と考えたら、ちょっと途方に暮れる数ですね。現場のご苦労が忍ばれます。

また、文化財保存の活動は阪神・淡路大震災や東日本大震災を経て、文化財レスキューという活動に広がりを見せています。震災により破損したり、津波により海水に浸ってしまった数多くの文化財を少しでも救うためにさまざまな活動が行われています。メディアなどにあまり取り上げられないため知る機会がないのですが、地道な活動が今も進行中です。

これらのことは新刊、神庭信幸著『博物館資料の臨床保存学』に詳しく書かれています。そろそろ書店でもご覧いただける時期となってきました。来週には実際にお手にとってご覧いただけるはず。保存修復に関わりたいと学んでいる学生さんにはもちろん、博物館好きの皆さんにもお勧めです。文化財レスキューのことについてもっと知りたい! という場合は、神庭先生のブログを閲覧するのもよいでしょう。東日本大震災後、先生が携われた活動のはじめから今に至るまでが現場で活動された方ならではの臨場感ある言葉で綴られています。本書を、より理解する助けとなることと思います。

是非『博物館資料の臨床保存学』をご一読の上、桜の季節にさまざまな博物館を訪れてみてはいかがでしょうか。展示されている文化財を見る目が変わっているかもしれません。

(編集:凹山人)

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