「ハムちゃん、大変だ! はやく、テレビを見てごらん」
1階にいた父に呼ばれてリビングに慌てて行ってみると、2つのビルからもくもくと黒煙があがっている。
ニューヨークの街に。
これは映画なのか? 現実のことなのか?
立ったままテレビを見ている父の後ろ姿、19年前のことをつい昨日のことのように思い出す。
今朝、出社してみると、机の上に見知らぬ人からの手紙があった。
丁寧な手書きの文字の主は、板垣鷹穂氏のお孫さんであった。
鷹穂氏のご長女のご逝去を知らせる悲しいお手紙ながら、
「復刊された『建築』は、鷹穂の遺族にとって、家宝とすべき著作です。」
と書かれていた。遺品の整理中に私からの手紙を見つけて、お手紙をくださったことが綴られている。
鷹穂氏の写真をお借りするために板垣家をお訪ねしたのは2008年初夏だったか。
お暇する時には、80代半ばのご長女が2階のお玄関から「さようなら〜」と手を振って見送ってくださった。
なんだか小津安二郎の映画みたい、と思ったのをよく覚えている。
何でもない光景をいつまでも忘れずにいるのは、どういうことだろう。
ことに亡くなった人のいる光景は、忘れがたい。
(編集:ハムコ)
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