最近読んだ阿部卓也『杉浦康平と写植の時代 光学技術と日本語のデザイン』(慶應義塾大学出版会、2023年)は、私たちの暮らしが文字とともにあること、その事実がいかに豊かかということを改めて気づかせてくれる本でした。
https://www.keio-up.co.jp/np/isbn/9784766428803/
同書は、建築家芦原義信に触れてはじまります。
芦原義信は東京芸術劇場やソニービルなどの設計で知られる、戦後モダニズムを代表する建築家で、
杉浦デザイン、写植、文字…などこの本から想起するキーワードからはかけ離れているので、冒頭から爽やかに裏切られます。
杉浦事務所と写研(モリサワと双璧をなした写植企業)の本社、どちらも芦原設計というささやかな共通点に触れるのみですが、
この後「杉浦康平」と「写植」を軸に、さまざま越境し、知らない世界を見せてくれるのではと直感的に思わせてくれる書き出しで、
その第一印象変わらないまま読み終えました。
武蔵美のキャンパス設計も芦原さんなので、どこか嬉しくなった贔屓目もあり印象に残っているのかもしれないですが。
芦原さんといえば、先日、代表作である駒沢公園体育館の管制塔(1964年)を初めて見ました。
1964年は東京オリンピックの年であり、ちょうど杉浦さんが『新日本文学』のデザインを担当しはじめた年、
杉浦さんが日本語をどう組むのか、デザインが造本にまでどう関わるのか、その道筋を見出していた頃に、
芦原さんは鉄筋コンクリートで五重塔を彷彿とさせる管制塔を建てたのかなど思いつつ。
編集:ナジオ
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