そろそろ『新版 graphic design 視覚伝達デザイン基礎』が店頭に並ぶ頃です。
充実した内容です。ちょっとずつ紹介というか制作よもやま話を。
まず3章6「動きとグラフィックデザイン」。著者は陣内利博先生。
3次元空間で時間の経過とともに生まれる「動き」。これを平面(2次元)でいかにして表現するか、というテーマです。
19世紀末の英国に生まれた視覚玩具、カッサンドルの3連作のポスター「DUBO/DUBON/DUBONNET」のほか、12世紀後半に成立したといわれる日本の絵巻物が3本登場します。
高山寺蔵・鳥獣人物戯画甲巻からカエルとウサギの相撲の場面。
出光美術館蔵・伴大納言絵巻から応天門の変を描いた紅蓮の炎と黒煙、走る武者という迫力のある場面。
信貴山朝護孫子寺蔵・信貴山縁起絵巻からは贅沢なことに3場面。米倉が宙を飛ぶ「飛倉の巻」、剣の護法童子が金輪を転がして空を走る「延喜加持の巻」、異時同図を示す例として有名な「尼公の巻」。
ぐるぐる巻きの巻物に延々と描かれた絵物語を冊子に掲載するわけなので、かなりの制約があります。巻物はだいたい天地30㎝程度で長さは何メートルというスケール。なのに、たとえばA4判の書籍は見開きいっぱいに使ったとして左右42㎝足らず。図像の縮小はやむを得ないとしてもせめて天地3〜5㎝は確保したい。となると掲載可能な場面は限られ、その条件内で、巻物が有するダイナミズムをどこまで見せられるか…。せつない。
制作中、ああ、もっと大きくしたいと悶々しながら「絵巻物のレプリカが出たら絶対に買う」と思いました。
昔の人は文机に巻物を載せ、右手で巻き取り、左手で巻き物を広げ、好きな場面を行ったり来たりしながら飽きるまでじっくり堪能したそうです。手の中で時間が自在に行ったり来たりする。
私にマニア気質はないですが、むちゃくちゃ楽しそうな気がします。やってみたい。
平面上で時間の経過と動きをいかに表現するか。このテーマで日本の絵巻物3本と、カッサンドルの3連ポスターを見比べるのも楽しいかと思います。
編集:t:eeh
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